安全関係記事

「プレス機械又はシャーの安全装置構造規格改正のポイント

プレス検査業者災害防止協会 小森雅裕 


構造規格改正の背景

プレス機械又はシャーの安全装置構造規格が33年ぶりに改正された(施行は平成23年7月1日)。過去に災害防止対策として実施されたノーハンドインダイ作業の徹底、安全プレスの導入・普及、特定自主検査の実施、さらに「機械の包括的な安全基準に関する指針」やリスクアセスメントなどの実施により、災害は著しく減少したが、さらなる減少を目標にして、待望の労働安全衛生規則(以下、安衛則)、動力プレス構造規格、プレス機械又はシャーの安全装置構造規格の改正が実施された。
 また、欧州で1995年から実施されている機械指令に基づく機械安全国際規格と日本国内構造規格との違いも大きくなってきているため、グローバルな観点からもこれらとの整合性が図られている。諸外国における法体系や規格の取り扱いが異なることを勘案すれば、国際的な流れに合わせていくことには太きな意味がある。
 さらに、いまだに発生しているプレス災害では、安全装置に起因するものが多いため、新たな安全装置(プレスブレーキ用レーザー式安全装置)や使いやすい作業方法(光線式安全装置の一部無効措置:ブランキング)を追認して、プレス機械の安全化を普及させていくことは大変重要である。今回の改正により、プレス安全対策は新しい局面に入った。
 

改正事項の要点

1 安全性の向上
(1)手払い式安全装置の製造禁止と使用制限 
 ポジティブクラッチプレスに使われている手払い式安全装置は、製造が禁止されることとなった(今回の改正前の規格(旧規格)第6章が削除された)。新たに検定製品を購入して単独で設置することはできなくなる(平成23年7月1日)以降)。手払い式安全装置を単独で使用して、プレスをフートペダルで起動する方式では、手払い棒で手を打たれて骨折したり、手が巻き込まれて被災したりする事例が多くなったためと思われる。
 従来は廉価で手軽な安全装置として使われていたが、今後は単独での使用はでできないことになった。当分の間、手払い式安全装置を使用する場合は、操作部を両手で操作する操作装置と併用して使うことになる。よって、両手操作式でない手払い式のプレスについては、両手操作装置を後付けする必要がある。両手操作装置と併用すれば、材料を抻入した手が危険限界に残らないので、直接手払い万手をたたかれたり、巻き込まれたりすることが少なくなり、有効と考えられている。ただしこれは、当分の間の措置であり、期間の定めは明らかにされていない。
 
(2)両手操作式安全装置
 両手操作式安全装置は、押しボタン等の操作部を両手でなければ操作できないようにすることで安全装置として使用することができるものである。今回の改正では、①「押しボタン等」に限定されていた両手操作装置が「操作部」に置き換えられたこと(改正プレス機械又はシャーの安全装置構造規格(以下、新規格)第16条)、②両方の押しボタンの時間差を0.5秒以内としたこと(新規格第16条第1号)、③二つの操作部の離隔距離は、片手操作防止構造(ボタンの問に遮蔽物を設置する等)があれば300 mm 以下でも使えるようになったこと(性能規定化、新規格第1フ条)、が挙げられる。詳細は解説2(2フ頁の[両手操作式の安全プレス]の項)を参照いただきたい。
 
(3)光線式安全装置
①防護すべき範囲の拡大
 旧規格では、光線式安全装置の防護すべき高さは、スライドのストローク長さ十スライド調節量の合計で、その最大高さは400 mmまででよいとされていた。しかし、危険限界の下や上から手が入ってしまうことがあるので、防護すべき高さを「危険を防止するために必要な長さ」として作業内容や作業姿勢なとにより必要とする十分な防護高さに改正した(新規格第20条第1号)。
 具体的な表現は通達に示されるようだが、制御機能付き光線式安全装置で定められている「スライドの下面をその最上位置からホルスターの上面まで作動方向に移動してできる空間領域」と考えられる。機械プレスではダイハイト十ストローク長さ(オープンバイト)、油圧プレスではデーライトがこれに相当する。
 また危険上限点を1,400 mm に想定した防護の方法も考えられる。ボルスターから1,400 mm の高さまでを防護するという考え方である。光線式安全装置を設置しても、その検知領域外から手などが入った場合に検知できなければ効果がないからである。実際の作業内容に合わせて、あるいは作業者の姿勢なども考えて十分な領域を防護しなくてはならない。

②検出能力の向上
 旧規格では、光軸間隔が50 mm以下と規定されていたが、今回の改正では連続遮光幅が50 mm以下となり、より細かい検出能力が要求されている(新規格第20条第2号)。防護領域内の任意の位置で最小直径が50mm以下の遮光棒が常に検知できなければならない検出能力である(解説2の図6 (28頁)参照)。連続遮光幅の大きさは、一般的には光軸間隔の半分程度なので20 mm~25 mmの光軸間隔と同等である。指先のような細い遮蔽物でも有効に検知できるような細かい検出能力が要求されている。
 
③制御機能付き光線式安全装置(PSDI)の追加
 旧局長通達(平成10年3月26日基発第130号)が構造規格の内容の一部として追加された。 PSDIは、Presence Sensing Device Initiationの英文名の頭文字を取った省略語である。 40年以上前にドイツのフオートケルンエ場で始まった方式で、光線式安全装置の「手を検出してプレスを急停止させる機能(ガードオンリー機能)」に、「手が危険限界から排除されたことを払出してプレス機械を起動させる機能(起動機能)」を追加したものである。
 ドイツをはじめ欧州各国の材料手送りによるプレス作業では、極めて標準的な作業方法で、両手押し操作やフートスイッチは使わす、材料を入れた手加危険限界から排除されると自動的にプレスが起動する。両手押し操作はボタンを押す力が必要なので、繰り返すと疲労や腱鞘炎になることがあった。このPSDIが導入された場合はこのような障害が少なくなるのである。
 また、動作のステップが少なくなるので、能率もかなり上昇し、安全と能率の両立が実現されている。ドイツでは両手操作に比較して、最低でも20%、多いときは100%の能率アップが実証されている。今回の改正に盛り込まれた内容は、通達のものと全く同一である。
 
2 新たな安全装置への対応
(1)プレスプレーキ用レーザー式安全装置
 旧規格では認められていなかったプレスブレーキに使用ずるレーザー式安全装置が追加された。従来までプレスプレーキには光線式安全装置しか取り付けられていなかったが、プレスプレーキ作業では材料を手で保持して作業するため、光線の防護領域の内部に手が入っていて光線式安全装置が使えないことが多かった。そこでスライドの危険限界内にある身体の一部に危険を及ばすおそれがあるときに、スライドの作動を停止できる構造の検出型安全装置を追認した(新規格第22条の2)(図)。これにより、ノーハンドインダイー辺倒の従来の考え方は大きく変更された。

 プレス用レーザー式安全装置(例)
 
 これは、欧州で一般的になっている油圧プレスブレーキ用のレーザー式の安全装置の規定を導入したものである。欧州の事業場でばレーザービームが一本の単光軸式と、数本の多光軸式が設置されている。検出型の安全装置なので危険限界内に入っている指先などを検出してスライドを停止させるものである。
光線式安全装置は、危険限界外から危険限界内に侵入してきた手などを検出して停止させるのに対して、このプレスプレー牛用レーザー式安全装置は、スライド下面に予め取り付けられたセンサーが危険限界内に入っている手などを検出し、スライドではさまれる寸前にプレスブレーキを停止させるものである。スライドが下降する方式のプレスプレーキには、レーザー式検出装置をスライド本体に取り付け、上昇式のプレスプレーキには、レーザーセンサーを上型固定部に取り付けて、下降・上昇する型で指がはさまれる寸前に停止させるものである(新規格第22条の2第1項第1号)。
 また、油圧プレスブレーキはスライドの下降速度を変更できるので、予め設定した危険領域に手が入ったら低閉じ速度機構(毎秒10 mm以下)を使用してゆっくりとスライドを下降させる機能を持たせなくてはならない(新規格第22条の2第1項第2号)。この低閉じ速度機構でスライドを作動させる場合は、操作部を操作している間のみスライドが作動する構造(保持式制御機構)でなければならない(新規格第22条の2第2項第2号)。
 
3 その他
(1)インターロックガード式安全装置で作動中に安全ガードを開ける方式を許容ガード式安全装置の名称が、インターロックガード式安全装置に変更された。旧規格では、このインターロックガード式安全装置は、スライドの閉じ行程の作動中はガードを開くことができない構造を要求されていたが、性能規定化され、ガードを開けてから身体の一部が危険限界に達するまでの間にスライドの閉じ行程作動を停止することができる構造のものが追認された(新規格第14条第2号)。
 
(2)光線式安全装置の中間光軸の一部無効
 光線の防護領域の中に材料の自動送給装置などが取り付けられると、この送給装置が光線の防護領域を遮光してしまうので光線式安全装置を使用できないという問題があった。そこで中間光軸の無効化措置(ブランキング)が一定の条件のもとで許可された。
 使用する条件としては、①検出を無効にするための切替えはキースイッチにより一光軸ごとに行う、②検出を無効にする送給装置に変更かあったときには再度設定(①)が必要になる、③送給装置が取り外された場合には、元の状態(ブランキングなしの状態)に戻さなければならない、と規定された(新規格第20条の2)。これが認められたことで、光線式安全装置の新しいアプリケーションとしての活用が期待される。
 一方で、使いやすくはなるものの、プレス作業主任者などの管理者が使用の可否を判断しなければならないため、管理上の問題が大きくなる。適正な使用が望まれる。
 
(3)安全プレスの項目で追加されたもの
 新動力プレス構造規格(以下、新プレス規格)では、第5章の安全プレスの項目で、安全装置に関連するものとして、①連続遮光幅に応じた追加距離(新プレス規格第43条)、②補助光軸(同44条)、③PSDI式安全プレス(同45条)などが規格化された。
 ①は、連続遮光幅に応じて安全距離(検出機構の光軸と危険限界との距離)に追加距離を加えなくてはならなくなったもの。これは解説2に詳しい解説があるので、参照いただきたい(29頁左段③)。要は、通達ご指定されているPSDIの追加距離と同様である。プレス作業の性質上、安全距離は小さいほど使いやすいので、実質的には30 mm以下の連続遮光幅の光線式安全装置が使われることになる。
 ②の補助光軸とは、検出機構の光軸とホルスターの前端との間に身体の一部が入り込む隙間がある場合に、当該安全囲い等(補助光軸等)を設けなければならないものである。身体の一部加入し)込む隙間の具体的な寸法は言及されていないが、ケースバイケースで作業内容や作業姿勢などを勘案して決定する。C型フレームの小型プレスではあまり必要がないが、ストレートサイド型フレームの中・大型プレスでは必要性が高い。特にボルスター内部に身体が入ってしまうような超大型プレスの場合には、ホルスター内部の人体検知用の補助光軸なども検討されなければならない。

ユーザーなどへの予想される今後の影響

 1 労働安全衛生規則改正に伴う対応
 今回の改正では、安衛則の改正とプレスおよび安全装置の構造規格の改正が同時に行われた。 安衛則で改正されたものは、7月1日の時点ですぐに対策が必要となる。安全装置に直接関連する規則改正としては、第131条関連として手払い式安全装置の取り扱いとプレスブレーキの安全装置の取り付けがある。前述のとおり、手払い式安全装置を使用するには両手操作式と併用しなければならす、手払い式安全装置を単独で使用している場合には両手操作装置を追加設置しなければならない。当分の問ではあるが、両手操作装置さえ使えるようにずれば、そのまま手払い式安全装置を使用することが可能である。製造は禁止されるが使用は禁止されていない。
 ただし、手払い式安全装置は、危険限界の前面で半円を描くように動作するので、両端の隙間に手が入らないようにして、両手操作装置と併用して正しく使用しなければならない。また、プレスブレーキ用の安全装置も設置していかなければならす、7月1日以降順次対応が必要になるだろう。現時点(平成回年1月26日現在)では、検定合格したものはないが、7月までには検定が実施されると思われる。プレスプレーキによる災害は、毎年150~200件前後発生しており、この安全装置が災害防止につながることが期待される。
 
2 構造規格改正に伴う対応
 事業場では安衛則改正の内容については、すぐに対応しなければならないが、構造規格はメーカーが対応すべき規格なので、ユーザーである事業場がすぐに対応することはない。施行日以降に新しい構造規格に対応した安全装置を設置等すればよいだろう。しかしながら今回の改正で新たに設置された安全装置(プレスプレーキ用安全装置など)や作業方法(プランキング・補助光軸等)などについては、従来の欠点を補完するものが多く含まれており、新しい安全対策としで注目されるものである。新たな構造規格はリスクアセスメント実施の際の危険性または有害性の判断要素としても重要である。

安全と健康  
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