安全関係記事

板金加工設備における最新の安全対策

株式会社小森安全機研究所 営業部 主任 渡辺鷹人 


板金加工技術はスマートフォン、はたまた飛行機に至るまでその製造過程において欠かせぬ技術となっており、今日の我々の生活に深く恩恵をもたらしている。
その技術は日々進化を遂げており、人間が手作業で加工を行うという方法から、ロボットが人間に成り代わり加工を行うという方法へ転移しつつある。
危険性を伴う板金加工に人間が介在しないというのは、安全性の観点から見てもまさに理想の形であり本質的安全対策といえる。
しかしロボットの導入には多額の資金投資が必要であり、かつ、己が培ってきた加工技術をロボットへ委ねることをよしとしない職人気質的風潮から、板金加工の全自動化には未だ課題が多い。
 

機械設備の安全対策における4つの手法

 機械設備の安全対策は大別すると4つの手法に分けられる。①本質的対策、②工学的対策、③管理的対策、④個人用保護具の使用による対策である。
①本質的対策は危険性を完全に排除することを目的とする。すなわち危険を伴う加工に人間は一切介入しない作業工程を確立することである。例として危険を伴う作業の廃止や、全自動化が挙げられる。
②工学的安全対策は一部工程において人間の介入を組み込むものの、その際はインターロック、安全装置により危険性を減じることを目的とする。
③管理的安全は教育により、④保護具による安全は手工具や保護メガネにより、作業者の最低限の安全を担保することを定義しており、作業者自らに安全を委ねるものである。
本稿ではレーザ加工と曲げ加工における最新の安全対策について、上記4手法のどの段階に至っているかを含めて解説していく。

レーザ加工の安全対策(Laser Safely Fence

最新のレーザ加工機はレーザが外に漏れないよう覆いがされ、自動で切断加工を行うことができる。作業工程において段取りの際も人間が介在しないのであれば、本質的安全対策ができているといえるだろう。しかし加工機へ十分な覆いがなされていなかったり、または保護具をした人間自身が手作業でレーザ加工を行なっている現場も数多ある。
個人用保護具による対策は作業者本人の安全は担保できるものの、第三者への対策は不可能であり、作業現場それ自体を覆う必要がある。

 Laser Safely Fence
 
Laser Safely Fence(上図)はそのようなレーザ加工設備またはレーザ加工現場を後付で囲うことができる、遮光性と組立性に特化した安全柵である。
当製品は遮光性に特化した連結部を採用(特許取得済)しているため、隙間が生ずることなく、シーリングも不要である(下図)。
 

 Laser Safely Fenceの連結部
 
また、フェンス同士の連結も専用クリップにて連結可能なため、簡便に配置変更、増設をすることが可能である。ただし取り外しには専用治具を用いる必要があるため、安全にも配慮した設計となっている。また、床下もでき得る限り隙間を埋める構造となっており、床下からの漏れ光についても対策をしている。のぞき窓に使用するレーザ遮蔽材については豊富に取り揃えており、レーザの種類や波長に応じて対応可能となっている。
 
 

曲げ加工の安全対策(DSP-AP型)

曲げ加工は主にプレスブレーキを用いて行われる。
理想的な安全対策として、曲げ加工それ自体を自動化できれば本質的対策が成せるが、前述の理由からその対策は現状困難であるといえる。
そのため工学的対策として安全装置の運用が望まれるが、平成23年の法改正以前は光線式安全装置しか法的に認められておらず、限定的な加工にしか用いることができなかった。故に安全装置を無効にして使用せざるを得なかったのである。
法改正によりプレスブレーキ用レーザ式安全装置(以下レーザ式安全装置)が認められるようになった結果、小物曲げや箱曲げ、連続曲げ等の様々な曲げ加工にも対応可能となり、安全装置を有効としつつ、つまり安全を担保しつつ曲げ加工を行えるようになった。
 
DSP-J型はプレスブレーキ用の安全装置として国内で初めて厚生労働省の定める型式検定番号を取得している(TA-501号)。レーザ式安全装置は構造規格により低閉じ速度を設ける必要があり、かつ、低閉じ中は安全装置を無効とすると定められている。
従来のレーザ式安全装置は加工時の低速領域の長短がプレスブレーキの急停止時間の良し悪しに依存していた。
つまり停止性能の悪いプレスブレーキへ取り付けた場合、低閉じ速度を多く設定しなければならず、それにより安全装置取付前に比して効率性が落ちることを許容せざるを得なかった。そこで低閉じ速度を狭めることで更に安全性と効率性を高めたのがDSP-AP型である。

 

 DSP-AP
 
DSP-AP型(上図)は板厚自動検知機能を搭載しており、条件さえ揃えば材料上 2mmの位置まで高速下降が可能である。
従来のレーザ式安全装置に比べ、無効領域を狭められたことにより安全性が向上し、同時に低速領域も狭められたことにより生産性をも向上させた、まさに最新の工学的安全対策の粋たるものである。
メーカーを問わずほぼすべてのプレスブレーキに後付け可能なので、まだ安全対策を実施していないプレスブレーキへの導入を是非ご検討されたい。
 
当社では命や身体の一部を失う痛ましい事故及び労働災害が絶えることを祈念して、安全対策に寄与する製品の開発に粉骨砕身して参る所存である。
 
 
 
 
 
 

2020年5月 「板金大全」
板金加工設備における最新の安全対策